アイ・エム・ジェイ クリエイティブ本部とアンタイプが合同勉強会を開催。 同業他社のクリエイターがコラボレーションして生み出すアイデアとは?

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2019.09.03

著者:海岡 史郎 写真:木田 裕介

「クリエイティブ脳を磨く」ためのワークショップ

 株式会社アイ・エム・ジェイ(以下、IMJ) クリエイティブ本部と株式会社アンタイプが8月2日、合同でワークショップを開催。

 テーマは「クリエイティブ脳を磨く」。社外へ飛び出し同業他社の作り手が集まって共創することで、知識や思考性を広げ、参加者に新しい発見や気付きを与えようという試みだ。

アイ・エム・ジェイ CREATIVE本部
エグゼクティブ クリエイティブディレクター 山本 哲司氏

 IMJのエグゼクティブ クリエイティブディレクター 山本 哲司氏からワークショップの趣旨が説明されたあと、まずは自己紹介からスタート。

 「名前」「自分をひと言で表すワード」「最近ハマっているか、気になっているモノ/コト(マイブーム)」の3つを3分で話すというルールで進行した。マイブームについては「使う前/使っている最中/使った後」での「気持ちの変化」も合わせて紹介する決まり。

アイ・エム・ジェイ CREATIVE本部
アートディレクター 久野 恭司氏

 ファシリテーターはIMJのアートディレクター 久野 恭司氏が担当した。

 アンタイプのディレクター中川 竜平氏は「ネガティブ界イチ ポジティブ」と自己紹介。「よく話すし、一見ポジティブに見えるけど、あまりアクティブに行動しない」と人から指摘されたことがあり、その言葉が自身の特徴をよく捉えていたため、印象に残っていたそう。

 そんな中川氏のマイブームは「体幹トレーニング」。

「始める前は、『疲れていて動きたくない』『嫌だな』という気持ちがあったのですが、トレーニングの結果をTwitterに投稿したり、人と進捗を共有し合っているうちに楽しくなってきました。

 腹筋なども、『負荷がかかり過ぎていてもう無理だ』と思いつつ、『まだイケるかも』と回数を重ねるうちに気分がよくなってきて、最後には高揚感で終われるんですよね。最近は『もっと新しいトレーニングを取り入れたい』という気持ちも出てきたんです」(中川氏)。

 IMJのデザイナー伊藤 美紀氏は「人に感化されやすいミーハー」と自己紹介。「人から勧められたり、人が好きなものを見ると、すぐに好きになっちゃうんです」とその理由を説明。

 マイブームは「釣り」。もともと釣りにまったく興味はなかったものの、ふとしたきっかけで釣りをしてみたら、想像以上に面白く、普段から釣りのコトをよく考えるようになったという。

 新人デザイナーとして日々の多忙な業務を優先して修行中のため、なかなか気軽に釣りに出かける時間が作れていないそう。「釣りに行けないので、釣りに行って鯛を釣り上げたりするイメトレをして楽しんでいます」(伊藤氏)。

 IMJとアンタイプが合同開催するワークショップはこの日がはじめて。それもあってか、プレゼン中の社員が言葉に詰まるシーンも見られたが、社員たちが楽しみながら真摯に自己PRをし、ときどき大笑いも起こる、和やかな様子が印象的。

デザイナーとエンジニアの発想力で
東京に新たな体験を生み出す

 続いては「ブレインストーミング」の時間に移行。ブレインストーミングは、アメリカの大手広告代理店BBDO社の副社長を務めたアレックス・F・オズボーン氏が考案したとされる会議法だ。

 「結論を出さない」「自由な発想」「質より量」「アイデアを結合して発展させる」という4つの原則のもと、複数人でアイデアを出し合うことによって、新たな発想を生んだり、問題を解決したりすることを目的としている。

 この日の議題は「地域を活性化させるインバウンド施策を考える」というもの。自己紹介で各人が話したマイブームとしての趣味趣向と、インバウンドをテーマとした特定地域を限定した内容を掛け合せるという、アレンジされた強制発想法を用いて行われた。

 チーム分けはA、B、C、Dの4組で、3人ずつ。各チームに、マネージャークラスの社員がサポートでつくという形だ。IMJとアンタイプの社員は、ほとんどがこの日初対面同士だったそうで、はじめこそ緊張している様子もあったが、次第に議論が白熱。はじめは、ぼそぼそ、ぽろぽろ……といった細切れの会話だったものが、終盤には各チームの議論で、ざわざわと会場全体が大いに盛り上がっていく様子が見られた。

 アンタイプの代表取締役 山下 太郎氏は「アンタイプという中小企業に属するクリエイターと、IMJという大企業に属するクリエイター。同業でも、属する組織の大きさが異なる社員たちが議論してコラボレーションする中で、新たな発見が得られないかという期待もあるんです」と話してくれた。

 会場となったアンタイプのオフィス内を巡回しての取材になったが、「イルミネーションは使いたい」「イルミネーションを使うなら、SNSの拡散力も結びつけたいかな」や、「秋葉原っていう街には、コアなものを偏見なく受け入れてくれる懐の深さがあるよね」「秋葉原が好きな人は、変わったものを気持ち悪いと思わないで、文化として捉えるんだと思う」など、議論がコンセプトに変化していく瞬間はいくつも発見できた。

 企業規模による発想や意識の違いが、議論にどう影響するか……といったディティールまで追うことはできなかったのだが、メンバーのテンションが呼応してどんどん会話が膨らんでいく様子は、記者という立場で見ていてとても面白く、同業他社の社員同士が出会うことによる化学反応とも言える現象が起きていたのかもしれない。

霧とアイドルで銀座をジャック!
「銀座から湿気が消えた日」

 45分間のブレインストーミングの時間を経て、プレゼンタイムへ。

 銀座をテーマにしたDチームのインバウンド施策は「銀座から湿気が消えた日」というタイトル。

 舞台は夜の銀座。銀座和光の時計台の前にスモークを焚き、あえて霧でくもった空間を作り出す。イルミネーションを用いて、霧を輝かせると同時に、霧がどんどん晴れていく。それと同時に舞台がせり上がり、アイドルグループの欅坂46がゲリラライブを行なうというものだ。

 実は除湿機のタイアップ施策を兼ねており、除湿機の除湿能力の強さをPRする目的を、銀座の夜のエンターテインメントにつなげようという発想。

 タイトルは欅坂46の2016年リリースの曲名「渋谷からPARCOが消えた日」のパロディで面白みを持たせた。「訪日外国人を見ていると、楽しんでいるんだけど、これだけ湿度が高くて暑いと、参っちゃうのかなと思って。暑さに嫌気がさしている人たちに楽しんでもらえたら」(アンタイプ フロントエンドエンジニア 尾形 典映氏)。

 ブレインストーミングに入る前に、IMJ 山本氏から「現実的な実現性や収益性よりも、発想力を広げることを重視してください」とアドバイスがあったことも手伝ってか、社員たちも自由に楽しみながら、アイデアを出せたのではないだろうか。

 各チームの発表内容は、アイデアの種とその可能性を探る段階をまとめたものだが、実現性に気をとられすぎていない分、「本当にそうなったらすごく楽しいだろうな」と思わせる内容に仕上がっていたと感じる。

スマホとARで日本の文化を広める
「渋谷で人を釣る」

 Bチームは渋谷を舞台にした「渋谷で人を釣る」。

 AR技術とスマートフォンを使った施策だ。渋谷のスクランブル交差点で、人が歩いているところに魚の映像を投射する。アプリを使って魚を釣り上げると、釣り上げた魚によって、異なる日本のキャラクターがスマートフォンに表示されるというもの。

 メインターゲットは「アメリカ国籍で20代前後、インスタグラムなどをよく見ている人」とのこと。ライトアップされた夜のスクランブル交差点を楽しんでもらうだけでなく、日本の文化を発見してもらおうという狙いを込めた。

 「渋谷には若い人が多いから、スマートフォンにも抵抗がなく、楽しんでもらえる。渋谷の人って、『街中に何かがある様子』を抵抗なく受け入れるところがあると思うんです」(IMJ デザイナー 伊藤 美紀氏)

 アイデア段階の発表内容を聞くだけでも「ぜひ楽しんでみたい!」と思えるインバウンド施策ではないだろうか。たとえば、渋谷のさまざまなスポットに魚が泳いでいて、アプリを使えば、日本の文化やキャラクターをコレクションしていけるようなゲーム性が備わると、位置情報ゲームのような面白さも出てくるかも?

マジョリティーを狙う!
「風を巻き込み愛を生み出す」

 新宿という土地を指定されたCチームは、さらに「新宿二丁目」にスポット当て、「風を巻き込み愛を生み出す」という施策を考案。

 携帯型の扇風機を発展させ、LEDが仕込まれ、電源を入れるとレインボーカラーに光るエリマキ型の扇風機を考案。これを新宿二丁目のショップや居酒屋で取り扱ってもらい、新宿二丁目に行けば購入できるという状況を作る。新宿二丁目へ行って、首の周りをレインボーに光らせて写真を撮り、SNSにアップするというブームを起こそうというものだ。

 「ターゲットはマジョリティーで、特定の国籍や性別も対象にしない。レインボーの光なので、LGBTを象徴しているというのが裏テーマです」(IMJ デザイナー 井坂 昭博氏)

 参加者がLGBTに対する理解を深めるきっかけを作ったり、東京レインボープライド(「性的指向および性自認のいかんにかかわらず、すべての人が、より自分らしく誇りをもって、前向きに楽しく生きていくことができる社会の実現を目指す」という趣旨で活動する特定非営利活動法人)との企画連携などにも発展させたいとも話した。

 新宿の中でも新宿二丁目にスポットを当てているのは、この理由が大きいのだろう。インバウンド施策というだけでなく、「ダイバーシティー」の実現に向けた施策という側面を含んでいる点が印象的。

筋トレにVTuberを掛け合わせる!
「Muscle Cast」

 Aチームの考案した「Muscle Cast」は、秋葉原を舞台にVTuber(バーチャルYouTuber)が、筋トレを支援してくれる施設を作ろうというもの。

 スケルトンの建造物に、デジタルサイネージとトレーニングマシンを設置。VTuberの指導を受けながら、筋トレを楽しんでもらおうという狙いだ。サブカルチャーを中心に、さまざまな文化を内包する秋葉原という街の特色を活かしつつ、宿泊施設でチケットを配布することで、訪日の促進を図る。

 「Muscle Castは日本に来て、健康になって帰ってもらおうという狙いです。日本から新しいコンテンツが出てきたなって思ってもらいたいのと、秋葉原から『日本といえば健康』というイメージを発信したい」(アンタイプ フロントエンドエンジニア 笹木 大樹氏)

ブレインストーミングの面白さ
次回以降も楽しみな展開に

 レポートの通り、どのチームのプレゼンもユニークなものに仕上がっていた。発想力を鍛えることを目的としたワークショップだったため、もちろんラフな部分もあったのだが、机にじっと座っていても浮かんで来なさそうな、ワクワク感のあるアイデアが短時間で生まれる様子は、取材をしていて非常に楽しかった。

 プレゼン終了後は、アンタイプからほど近いピザ店「800° DEGREES NEAPOLITAN PIZZERIA」に参加メンバー全員で移動して、2社合同の親睦会を開催。会社の規模感こそ違っても、同業で、年代も近いメンバーたちは共通の話題も多いらしく、大いに盛り上がっていた。

 IMJ クリエイティブ本部とアンタイプの両社は、今後も勉強会としてワークショップを定期的に開催していく計画があるそう。また、別の同業社にも声をかけてコラボレーションの機会を作っていきたいという。
第2回目以降も、彼らからどんなアイデアが飛び出すのかが非常に楽しみである。