
- Yamashita
- 2026.01.29
はじめに:AIは「文脈」を忘れる
AIコーディングツールを使っていて、こんな経験はないでしょうか。「さっきまで完璧に動いていたのに、新しいセッションを開いたら全く違う書き方をしてきた」「プロジェクトのルールを毎回説明するのが面倒」「複数人で同じAIツールを使っているのに、出力がバラバラ」
これらはすべて、AIの「文脈の断絶」に起因する問題です。AIは賢いですが、前回のセッションで学んだことを覚えていません。プロジェクト固有のルールを明示的に伝えない限り、汎用的な提案をしてきます。
この課題に対して、2つの有力なアプローチが登場しています。1つはCursorの「Project Rules」機能、もう1つはSteve Yegge氏が開発した「beads」というAIエージェント向けタスク管理ツールです。
本記事では、これらのツールを受託Web制作・保守運用の現場で活用できるか、実務的な観点から検証します。
1. Cursor Project Rules:AIへの「指示書」
Cursorは、AI機能を統合したコードエディタです。VS Codeをベースにしており、Copilotとは異なる独自のAI統合を提供しています。その中でも注目すべきが「Project Rules」機能です。
1-1. Project Rulesとは
Project Rulesは、プロジェクト固有のルールや文脈をAIに伝えるための仕組みです。.cursor/rules/ディレクトリに.mdcファイル(Markdown + YAML)を配置することで、AIの提案内容をプロジェクトに最適化できます。
従来の.cursorrulesファイルは廃止予定となっており、現在はProject Rules(.mdc形式)への移行が推奨されています。
Project Rulesの最大の特徴は、ルールの適用条件を細かく指定できる点です。
- Always:常にコンテキストとして参照される
- Auto Attached:globパターン(*.php、*.cssなど)にマッチした場合のみ適用
- Agent Requested:AIエージェントが必要と判断した場合に参照
- Manual:明示的に呼び出した場合のみ適用
1-2. 受託案件での活用シナリオ
シナリオA:複数クライアントの保守運用
クライアントA社はBEM記法、B社はFLOCSS、C社は独自のCSS設計を採用しているケースを想定します。従来は、担当者が毎回「このプロジェクトはBEMで」と説明するか、AIの提案を手動で修正する必要がありました。
Project Rulesを使えば、各プロジェクトのルートに.cursor/rules/css-convention.mdcを配置し、CSS設計のルールを明文化できます。AIは自動的にそのルールに従った提案をしてくれます。
シナリオB:レガシーコードの保守
納品されたコードがjQuery + PHPのレガシー構成で、モダンな書き換えは許可されていないケース。AIはつい最新のベストプラクティスを提案しがちですが、Project Rulesで「Reactへの書き換えは禁止」「ES6以降の構文は使用しない」などを明示できます。
シナリオC:チーム内でのAI出力の統一
.cursor/rulesディレクトリをGitリポジトリに含めれば、チーム全員が同じルールでAIを使えます。「Aさんが作ったコードとBさんが作ったコードで書き方が全然違う」という問題を軽減できます。
1-3. Claude CodeのCLAUDE.mdとの比較
Claude Codeにも同様の機能として「CLAUDE.md」があります。プロジェクトルートにCLAUDE.mdファイルを配置することで、Claude Codeにプロジェクト固有の指示を与えられます。
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観点 |
Cursor Project Rules |
Claude Code CLAUDE.md |
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ファイル形式 |
.mdc(Markdown + YAML) |
.md(Markdown) |
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複数ファイル |
◎ 可能(条件別に分割) |
△ 単一ファイル推奨 |
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適用条件 |
◎ glob、Always等を指定可 |
○ 常に適用 |
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GUI設定 |
◎ 設定画面あり |
△ テキスト編集のみ |
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Git連携 |
◎ ディレクトリごとcommit |
◎ ファイルごとcommit |
結論として、細かい条件分岐が必要な場合はCursor Project Rules、シンプルに全体ルールを定義したい場合はCLAUDE.mdが適しています。
2. beads:AIエージェントのためのタスク管理
beadsは、元Google/AmazonエンジニアのSteve Yegge氏が開発した、AIコーディングエージェント向けのタスク管理ツールです。「AIエージェントの持続的なメモリ」を提供することを目的としています。
2-1. beadsの設計思想
DAG(有向非巡回グラフ)によるタスク管理
beadsの最大の特徴は、タスク間の「依存関係」を中心に据えた設計です。従来のタスク管理ツールが「いつやるか」(スケジュール)を重視するのに対し、beadsは「何が先に終わるべきか」(依存関係)を重視します。
たとえば「要件定義 → 実装 → テスト → リリース」のように、先に終わらないと次に進めない関係を明示的に定義できます。AIエージェントはこの依存関係を参照して、「今、着手可能なタスクは何か」を判断できます。
Gitとの深い統合
beadsはタスクをJSONL形式で.beads/ディレクトリに保存し、Gitでバージョン管理します。これにより、タスクの履歴がコードの履歴と同期され、「このコミットでどのタスクが完了したか」を追跡できます。
MCPサーバーとしての機能
beadsはMCPサーバーとしても機能します。Claude CodeやCursorなどのMCP対応ツールからbeadsのタスク情報を直接参照・操作できます。これはMCP、A2A、UCPといったプロトコルの実用例の一つと言えます(詳細は当社ブログ「UCP・A2A・MCP・AP2 | AIエージェント連携プロトコルの全体像」https://untype.jp/blog/ucp-a2a-mcp-ap2-aiエージェント連携プロトコルの全体像 を参照)。
2-2. 受託案件での活用可能性
活用できそうな場面
- 長期運用案件でのタスク依存関係の可視化:「このバグ修正はあのリリースが終わってから」といった関係を明示化
- AIエージェントとの協働:Claude CodeやCopilot Agent Modeと連携し、「次に着手すべきタスク」を自動で判断
- コードと同期したタスク履歴:Gitの履歴とタスクの履歴が統合され、「なぜこの変更をしたか」の追跡が容易
現時点での課題
- 学習コスト:CLIベースのツールであり、非エンジニアには敷居が高い
- 成熟度:2025年後半にリリースされた新しいツールで、まだドキュメントや事例が少ない
- 既存ツールとの併用:GitHub IssuesやBacklogなど既存のタスク管理ツールとの使い分けが必要
- 安定性:GitHubのIssueを見ると、worktreeの同期問題などまだ解決されていない課題がある
2-3. 結論:時期尚早だが注目すべき
現時点では、受託案件の本番環境でbeadsを全面導入するのは時期尚早と考えます。しかし、以下の点で注目に値します。
- 「AIエージェントのためのタスク管理」という新しいカテゴリを開拓している
- MCPとの統合により、今後のAIツールとの連携が期待できる
- Gitとの統合というアプローチは、開発者にとって自然なワークフロー
個人のサイドプロジェクトや、社内の実験的なプロジェクトで試してみる価値はあります。
3. 実践的な導入ステップ
Cursor Project Rulesは、今日から導入できる実用的なツールです。以下に、受託案件での導入ステップを示します。
3-1. Step 1:既存プロジェクトのルール整理
まず、既存プロジェクトの暗黙のルールを洗い出します。
- CSS設計方針(BEM、FLOCSS、独自など)
- 使用ライブラリの制約(jQueryのバージョン、Reactは不使用など)
- 命名規則(ファイル名、変数名、class名)
- 禁止事項(ES6構文禁止、特定のプラグイン禁止など)
3-2. Step 2:.mdcファイルの作成
整理したルールを.cursor/rules/ディレクトリに.mdcファイルとして配置します。ファイルは目的別に分割することをお勧めします。
3-3. Step 3:Gitリポジトリへのコミット
.cursor/rules/ディレクトリをGitリポジトリに含めます。これにより、チーム全員が同じルールを共有できます。.gitignoreに追加しないよう注意してください。
3-4. Step 4:運用と改善
AIの出力を観察し、ルールが適切に機能しているか確認します。期待と異なる出力があれば、ルールを修正します。ルールの修正もGitで履歴管理されるため、「いつ、なぜルールを変更したか」を追跡できます。
4. まとめ
Cursor Project Rules:今すぐ導入できる
プロジェクト固有のルールをAIに伝える仕組みとして、Cursor Project Rulesは実用的な選択肢です。特に、複数のクライアント案件を抱える受託制作会社にとって、案件ごとの「癖」をAIに学習させる仕組みは大きな価値があります。
beads:将来に向けて注目
AIエージェントのためのタスク管理という新しいカテゴリを開拓するbeadsは、まだ成熟途上ですが、MCPとの統合やGitとの同期というアプローチは、今後のAI開発ワークフローの方向性を示唆しています。
AIとの協働は「指示書」の整備から
AIツールの性能が向上しても、プロジェクト固有の文脈を伝えなければ、汎用的な出力しか得られません。「AIへの指示書」を整備し、チームで共有することが、AI活用の第一歩です。
まずは、担当しているプロジェクトの暗黙のルールを1つ、.mdcファイルに書き出すことから始めてみてください。その小さな一歩が、AIとの協働を大きく改善するはずです。








