AIエージェントが企業システムやサービスと連携するための標準プロトコルが、急速に整備されつつあります。2024年後半から2026年初頭にかけて、Anthropic、Google、そして業界各社が相次いでオープンプロトコルを発表し、「エージェンティック・コマース」の技術基盤が形成されています。
本記事では、技術者向けに、UCP(Universal Commerce Protocol)、A2A(Agent2Agent Protocol)、MCP(Model Context Protocol)、AP2(Agent Payments Protocol)という4つの主要プロトコルの役割と相互関係を整理し、実装に向けた具体的なアプローチを解説します。
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プロトコル |
発表元・時期 |
主な役割 |
ガバナンス |
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MCP
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Anthropic 2024年11月
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LLMとツール・データの連携
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Linux Foundation
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A2A
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Google 2025年4月
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エージェント間通信
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Linux Foundation
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AP2
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Google 2025年9月
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エージェント決済
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オープンソース
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UCP
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Google 2026年1月
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コマース全体の統合
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オープンソース
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MCPは、Anthropicが2024年11月に発表し、2025年12月にLinux Foundationに移管されたオープンスタンダードです。大規模言語モデル(LLM)が外部ツールやデータソースと統合する際の標準インターフェースを提供します。
MCPは「LLMとツールの接続」に特化しています。従来、LLMがデータベースにアクセスしたり、APIを呼び出したりするには、アプリケーションごとに個別の実装が必要でした。MCPは、この連携を標準化することで、一度MCP対応したツールは、どのMCP対応LLMアプリケーションからも利用可能になります。
MCPサーバー:外部システム(データベース、API、ファイルシステムなど)へのアクセスを提供するコンポーネント。リソースの公開、ツールの提供、プロンプトの管理を行う。
MCPクライアント:LLMアプリケーション側のコンポーネント。MCPサーバーに接続し、リソースの取得やツールの実行を行う。
トランスポート:JSON-RPCベースの通信プロトコル。標準入出力(stdio)、HTTP/SSE、WebSocketなどをサポート。
A2Aは、Googleが2025年4月に発表し、同年6月にLinux Foundationに寄贈されたオープンプロトコルです。異なるAIエージェント同士が相互運用可能になるための通信標準を提供します。2025年10月時点で150以上の組織がサポートを表明しています。
MCPが「LLMとツール」の接続に焦点を当てているのに対し、A2Aは「エージェントとエージェント」の通信に特化しています。MCPではツールは静的なインターフェースですが、A2Aではエージェントは自律的な意思決定主体として扱われます。公式ドキュメントでは「MCPでツールを装備し、A2Aでエージェント同士が通信する」という使い分けが推奨されています。
Agent Card:エージェントの機能をJSON形式で記述したメタデータ。他のエージェントはこれを参照して、どのエージェントにタスクを委譲するかを判断する。
Task:エージェント間でやり取りされる作業単位。ライフサイクル管理が定義されており、長時間実行されるタスクの状態同期もサポート。
Artifact:タスクの成果物。テキスト、画像、ファイルなど様々な形式をサポートし、コンテンツタイプのネゴシエーションが可能。
AP2は、Googleが2025年9月に60社以上のパートナー企業(Mastercard、PayPal、Coinbase、Visaなど)と共同で発表した、AIエージェント主導の決済を安全に実行するためのプロトコルです。A2AおよびMCPの拡張として設計されています。
従来の決済システムは「人間が直接、信頼されたWebサイトで購入ボタンをクリックする」という前提で設計されています。AIエージェントが自律的に決済を行う場合、この前提が崩れ、以下の問題が発生します。
認可の証明:ユーザーがエージェントに特定の購入を許可したことを、どう検証するか。
意図の真正性:エージェントのリクエストがユーザーの真の意図を反映しているか、AIの「ハルシネーション」ではないか。
説明責任:不正取引が発生した場合、誰が責任を負うのか。
AP2は、W3C Verifiable Credentialsに基づいた3種類のデジタル証明書(Mandate)を使用してこれらの問題を解決します。
Intent Mandate:ユーザーが不在の状態でエージェントが購入を行う際の条件を定義。価格上限、タイミング、その他の制約を含む。
Cart Mandate:ユーザーが特定のカート内容(商品、価格)を最終承認した証明。ユーザーの暗号署名により否認不可能な意図の証明となる。
Payment Mandate:決済ネットワークと発行会社に共有される証明書。AIエージェントの関与とユーザーの在席/不在席を示すシグナルを含む。
UCPは、2026年1月にGoogleがShopify、Walmart、Targetなどと共同で発表した、エージェンティック・コマースのためのオープンスタンダードです。MCP、A2A、AP2との互換性を持ち、商品発見から購入、購入後サポートまでのコマース全体を統合します。
UCPは、MCP、A2A、AP2を「コマース」という特定のドメインに適用するための上位レイヤーと考えることができます。UCPは既存のプロトコルを置き換えるのではなく、それらと連携しながらコマース特有の要件(カート管理、チェックアウト、注文管理など)を標準化します。
Checkout:チェックアウトセッションの管理。カート操作、税計算、割引適用、サブスクリプション設定などをサポート。
Identity Linking:OAuth 2.0を使用したユーザー認可。ロイヤルティプログラムとの連携やパーソナライズされた価格設定を可能にする。
Order Management:Webhookベースの注文ライフサイクル管理。発送、配達、返品などのイベントを通知。
UCPでは、マーチャントは/.well-known/ucpエンドポイントにビジネスプロファイルをJSONで公開します。このプロファイルには、サポートする機能(Capabilities)、決済ハンドラー、拡張機能が記述されます。エージェントはこのプロファイルを参照し、マーチャントの機能を自動的に発見・ネゴシエートします。
UCPはHTTPのコンテンツネゴシエーションに似た仕組みを採用しています。エージェントとマーチャントはそれぞれのプロファイルを交換し、双方がサポートする機能の共通部分を算出します。これにより、異なる機能を持つシステム間でも柔軟に連携が可能です。
UCPはREST API、MCPバインディング、A2Aの3つのトランスポートをサポートしています。既存のシステムアーキテクチャに応じて最適な方式を選択できます。すでにMCPを実装している場合は、MCPバインディングを使用することで比較的容易にUCP対応が可能です。
UCP公式サイト:https://ucp.dev/
UCP GitHub:https://github.com/Universal-Commerce-Protocol/ucp
A2A公式サイト:https://a2a-protocol.org/
AP2公式サイト:https://ap2-protocol.org/
MCP公式サイト:https://modelcontextprotocol.io/
Google Developers UCP Guide:https://developers.google.com/merchant/ucp
MCP、A2A、AP2、UCPという4つのプロトコルは、それぞれ異なる役割を持ちながら、相互に補完し合う関係にあります。MCPはLLMとツールの接続、A2Aはエージェント間通信、AP2はエージェント決済のセキュリティ、そしてUCPはこれらを統合してコマース全体を標準化します。
これらのプロトコルはすべてオープンソースまたはLinux Foundation傘下で公開されており、特定のベンダーに依存しない設計となっています。エージェンティック・コマースの実装を検討する際は、まず公式ドキュメントとGitHubリポジトリを確認し、自社システムに最適な統合アプローチを検討することをお勧めします。