
- Yamashita
- 2026.01.28
画像生成AI、UIキットの自動生成、デザインバリエーションの一括作成——デザイン領域へのAI進出は、他の職種と比べても特に急速です。
「デザイナーは真っ先にAIに仕事を奪われる」
そんな声も聞こえてきます。しかし、私たちはむしろ逆の見方をしています。AIがデザインの「作業」を担うようになるからこそ、人間のデザイナーの価値は純化され、より本質的なものになっていくと。
「作る」から「選ぶ」へのパラダイムシフト
これまでのデザイナーの価値は、大きく分けて2つありました。
- 優れたビジュアルを「構想する」能力
- それを実際に「形にする」技術
AIの進化により、後者の比重が急速に下がっています。
MidjourneyやDALL-E 3は、テキストプロンプトから高品質な画像を生成します。Figmaのプラグインは、コンポーネントのバリエーションを自動生成します。Adobe Fireflyは、既存のデザインをベースに無数のアレンジを提案してきます。
では、デザイナーに残される役割は何か。
それは「選ぶ」という行為です。
AIが100パターンのデザインを提示したとき、そこから最適な1つを選び取る。あるいは、100パターンすべてが「違う」と判断し、別の方向性を指示する。この判断こそが、人間のデザイナーにしかできない仕事になります。
「審美眼」と「文脈理解」が差別化要因に
AIは膨大なデータから「平均的に好まれるデザイン」を学習しています。しかし、デザインの良し悪しは文脈によって変わります。
高級ブランドのサイトと、親しみやすさを重視する地域密着型サービスのサイト。同じ「洗練されたデザイン」でも、求められるニュアンスはまったく異なります。
AIにはまだ、このような文脈の機微を理解することが難しい。クライアントの業界における立ち位置、競合との差別化ポイント、ターゲットユーザーの感性——これらを総合的に判断し、「このプロジェクトにとっての正解」を見極める能力は、人間の領域として残り続けます。
具体的にどう変わるか
Before(従来のワークフロー):
- ヒアリング
- 競合調査
- ワイヤーフレーム作成
- デザインカンプ作成
- 修正対応
- 完成
After(AI活用後のワークフロー):
- ヒアリング
- AIによる競合分析+トレンド提示
- AIによるワイヤー候補生成
- 人間が方向性を選定
- AIによるデザインバリエーション生成
- 人間が最終選定+ディレクション
- 完成
工程数は増えているように見えますが、各工程にかかる時間は大幅に短縮されます。そして重要なのは、人間が関与する工程が「作業」から「判断」に変わっている点です。
クリエイティブディレクションの重要性が増す
デザイナーの上位職として「クリエイティブディレクター」がありますが、AI時代においては、すべてのデザイナーにこの視点が求められるようになります。
クリエイティブディレクションとは、簡単に言えば「何を作るべきか」を決めること。そして「なぜそれを作るのか」を説明できること。
AIは「どう作るか」は得意ですが、「なぜそれを作るのか」には答えられません。
あるランディングページのデザインにおいて、なぜこの色を選んだのか。なぜこのレイアウトなのか。なぜこのフォントなのか。すべてに理由を持ち、それをクライアントやチームに説明できる——この能力が、デザイナーの核心的価値になります。
ツール習熟からAI協働へ
従来のデザイナーは、Photoshop、Illustrator、Figma、Sketchなど、様々なツールの習熟が求められました。これらのスキルがなくなるわけではありませんが、新たに「AIとの協働スキル」が加わります。
AIを使いこなすために必要な能力
- 言語化能力
AIは言葉で指示を受けます。頭の中にあるイメージを、テキストとして正確に伝える能力が不可欠です。「かっこいい感じで」ではなく、「2010年代のスイスタイポグラフィを基調に、モノクロームで、余白を大きく取った、緊張感のあるレイアウト」と指示できるかどうか。
デザインの言語化は、実はクライアントへのプレゼンテーションにも直結します。AIへの指示が上手い人は、クライアントへの説明も上手いことが多い。
- リファレンス収集と体系化
AIに良い出力をさせるには、良いインプットが必要です。日頃からデザインのリファレンスを収集し、それを言語化して整理しておく習慣が重要になります。
「このデザインの何が良いのか」を言葉で説明できるようにしておくと、AIへの指示にも、クライアントへの提案にも活用できます。
- イテレーションの高速化
AIの強みは、バリエーション生成の速さです。この強みを活かすには、人間側も判断を素早く下す必要があります。
100パターンの中から3つに絞り、さらにそこから方向性を決めて次の100パターンを生成し……というサイクルを高速で回せるかどうか。「迷う時間」を減らし、「判断する時間」に集中できるかが、生産性を左右します。
「デザインの民主化」とプロフェッショナルの立ち位置
Canvaの普及以降、「誰でもそれなりのデザインが作れる」時代になりました。AI時代はこの傾向がさらに加速します。
では、プロのデザイナーの存在意義はなくなるのでしょうか。
私たちは、むしろ逆だと考えています。
「それなりのデザイン」が溢れる時代だからこそ、「本当に優れたデザイン」の価値が際立つ。AIやテンプレートでは到達できない領域——ブランドの世界観を体現するデザイン、ユーザーの行動を変えるデザイン、記憶に残るデザイン——を提供できるプロフェッショナルの需要は、むしろ高まります。
問われるのは、「AIと同じことができるか」ではなく、「AIにはできないことができるか」です。
これから身につけるべきこと
AI時代を見据えて、デザイナーが今から準備すべきことを整理します。
1. 審美眼を言語化する訓練
毎日1つ、良いと思ったデザインについて「なぜ良いのか」を言葉で書き出す習慣をつける。最初は難しくても、続けるうちに自分の審美眼の輪郭が見えてきます。
2. ビジネス視点の強化
デザインは最終的にビジネス成果につながる必要があります。コンバージョン率、ユーザー行動、ブランド認知——これらの指標とデザインの関係を理解し、「このデザインがなぜビジネスに貢献するか」を説明できるようになる。
3. AI活用の実践
実際にAI画像生成ツールを使い、プロンプトの書き方を試行錯誤する。FigmaのAIプラグインを導入し、ワークフローに組み込んでみる。使ってみないと、何ができて何ができないかは分かりません。
まとめ:職人からディレクターへ
AIエージェント時代、デザイナーの役割は「職人」から「ディレクター」へと変化します。
自らの手で1ピクセルを動かす技術は引き続き重要ですが、それ以上に「何を作るべきか判断する」「なぜこのデザインなのか説明する」能力が求められるようになります。
これは、デザイナーという職種の価値が下がることを意味しません。むしろ、作業に追われていた時間が解放され、本来デザイナーがやるべき「考える仕事」に集中できるようになる。
手を動かす速さで勝負する時代は終わりを迎えつつあります。これからは「選ぶ眼」を持つ者が、デザインの世界をリードしていくでしょう。
この記事は、Web制作の現場でAI活用を推進している株式会社アンタイプが、業界の未来について考察したものです。








