あなたの会社のWebサイトに、人間ではなくAIが訪れる日が来る。
これは遠い未来の話ではない。GoogleのAI Mode、ChatGPT、Perplexity、GeminiといったAIアシスタントが、消費者に代わって商品を探し、サービスを比較し、予約や購入を実行する世界は、すでに形になり始めている。
では、AIエージェント同士が「会話」するとは、具体的にどういうことなのか。そして、あなたの会社のWebサイトは、その会話に参加できる状態にあるのか。
このシリーズでは、AIエージェント間通信のオープン標準である「A2A(Agent2Agent)プロトコル」を軸に、医療・EC・不動産という3つの業種の具体的なシナリオを通じて、この変化の本質を掘り下げていく。
「A2A」とは何か ― 30秒で理解する
A2Aプロトコルは、2025年4月にGoogleが発表したAIエージェント間の通信規格だ。同年6月にはLinux Foundationに寄贈され、AWS、Microsoft、Cisco、Salesforce、SAP、ServiceNowなどが参画するオープンソースプロジェクトとなった。2025年7月のバージョン0.3リリース時点で、150以上の組織がこのプロトコルを支持している。
「AIエージェント間の通信規格」と聞くと、エンジニア向けの話に聞こえるかもしれないが、経営者にとって重要なのはこの一点だ。
A2Aは、異なる会社のAIエージェントが、お互いの内部情報を明かさずに仕事を委任し合える仕組みである。
ここが、従来のAPIやシステム連携とは根本的に異なる。
MCPとの違い ― 「手」と「口」
AIエージェント関連のプロトコルとして、Anthropic(Claudeの開発元)が提唱するMCP(Model Context Protocol)も広く知られている。A2Aと何が違うのか。
端的に言えば、MCPは「1つのAIエージェントを賢くする」ための仕組みで、A2Aは「複数のAIエージェントを繋げる」ための仕組みだ。
MCPは、AIエージェントが外部のデータベースやAPI、ツールにアクセスするためのインターフェースを標準化する。たとえば、自社のAIエージェントが社内の在庫データベースを参照するとき、その接続方法を統一する規格だ。
A2Aは、そのAIエージェントが「別の会社のAIエージェント」と会話する方法を標準化する。自社の在庫エージェントが、仕入先のAIエージェントに「この部品を100個、来週までに納品できるか?」と問い合わせる。その通信の仕組みがA2Aだ。
IBMの解説ページでは、両者の関係を小売業の例で説明している。店舗の在庫エージェントがMCPで自社の商品データベースにアクセスし、在庫切れを検知する。するとその在庫エージェントが、A2Aを使って外部のサプライヤーエージェントに発注を出す。わかりやすく喩えるなら、MCPが「手」でA2Aは「口」に相当する。
実際のアプリケーションでは、この2つは補完的に機能する。エージェント間の通信にはA2Aを使い、各エージェントは内部的にMCPで自分のツールやリソースにアクセスするという構成だ。
A2Aの通信はどう流れるか ― 4つのステップ
A2Aの基本的な通信フローは4つのステップで構成される。技術的な詳細を省いて、概念だけを押さえておこう。
ステップ1:発見。 クライアントエージェント(依頼する側)が、リモートエージェント(依頼される側)の「名刺」を読みに行く。この名刺は「Agent Card」と呼ばれるJSONファイルで、「自分は何ができるか」「どの認証方式に対応しているか」が書かれている。
ステップ2:認証。 Agent Cardに記載された認証方式に従って、安全な接続を確立する。OAuth 2.0やAPIキーなど、既存のWeb標準がそのまま使える。
ステップ3:タスク実行。 クライアントがリモートエージェントにタスクを送信する。リモートエージェントはそのタスクを処理し、必要に応じて追加情報を要求したり、進捗をリアルタイムで報告したりする。
ステップ4:結果返却。 処理が完了すると、成果物(Artifact)がクライアントに返される。文書、データ、画像など、様々な形式が扱える。
重要なのは、この通信がHTTP、JSON-RPC、SSE(Server-Sent Events)という既存のWeb標準の上に構築されていることだ。新しい技術基盤を導入する必要はない。すでにある企業のITインフラにそのまま乗せられる。
あなたの業界にA2Aは関係あるか ― 3つの判定基準
「面白い技術なのはわかった。で、うちに関係あるのか?」
これが経営者の率直な疑問だろう。A2Aの恩恵を受けるかどうかは、以下の3つの問いに集約される。
判定1:自社だけでは完結しない業務があるか
取引先、パートナー、行政機関など、外部の組織と連携しなければ完了しない業務プロセスがあるかどうか。自社のシステム内で完結するなら、内部のAPI連携やMCPで十分であり、A2Aの出番はない。
判定2:相手に「判断」を委ねる場面があるか
単にデータを取得するだけなら、従来のREST APIで事足りる。「この条件で対応可能か判断してほしい」「最適な提案を出してほしい」といった、相手側の自律的な判断を伴うやり取りがあるかどうか。ここがAPIとA2Aの決定的な分岐点だ。
判定3:相手の内部ロジックを知らなくても成立するか
A2Aの設計思想の核心は「不透明性(Opacity)」と呼ばれる原則だ。エージェントは、お互いの内部メモリやロジック、使用しているツールを開示することなく協働できる。これは企業間取引において、各社のビジネスロジックや価格設定の基準を守りながら連携するという、現実のビジネス要件と一致する。
3つ全てに「Yes」と答えられる業界は、A2Aの恩恵が大きい。
4段階の恩恵マップ ― あなたの会社はどこにいるか
上記の判定基準を基に、Webサイトの種類ごとの恩恵を4段階に整理する。
恩恵が最も大きい:マルチベンダー連携プラットフォーム。 ECモール、旅行予約サイト、保険比較サービスなど、複数の外部サービスやベンダーのエージェントと自動連携する必要があるサイト。今すぐ検討の価値がある。
恩恵が大きい:SaaS・API提供型サービス。 自社のサービスを「エージェントから呼び出せるように」外部公開したいサイト。決済サービス、CRM、分析ツールなど。2026年〜2027年にかけて差別化要因になる。
恩恵が中程度:社内業務が複数システムにまたがる企業。 社内の各部門エージェントを連携させて業務を自動化したい企業。外部公開ではなく内部最適化が目的。エージェント導入が進んでからの話。
恩恵が小さい:一般的なコーポレートサイト・ブログ・LP。 情報発信が主目的で、複雑なワークフローや外部連携が少ないサイト。A2A自体は当面不要だが、後述する「A2A時代に備えたサイト構造」は別の話だ。
最後の点が重要だ。A2Aの恩恵を「直接」受けないサイトであっても、AIエージェントが自社を「発見」し「理解」できる状態にしておくことの重要性は、今後ますます高まる。 Schema.orgによる構造化データ、llms.txt、セマンティックHTMLといった基盤整備は、全てのサイトに関わる話だ。この点は第5回で詳しく掘り下げる。
次回予告 ― AIが紹介状を書く日
A2Aの概念を理解したところで、次回からは業種別の具体的なシナリオに入る。
第2回は、医療。クリニック、専門病院、調剤薬局、保険会社、検査機関。1人の患者をめぐって6つ以上の組織が関わるこの業界で、A2Aがどのような変化をもたらすのか。紹介状がFAXから消える日は、想像よりも近いかもしれない。
この記事はシリーズ「AIエージェントがあなたの会社と取引する日」の第1回です。
- 第1回:AIエージェント同士が「会話」する時代が来た(本記事)
- 第2回:病院の紹介状がFAXから消える日 ― 医療×A2A
- 第3回:AIが代わりに買い物をする ― EC×A2A×UCP
- 第4回:住宅ローン審査が3行同時に走る日 ― 不動産×A2A
- 第5回:あなたのサイトは「見つけてもらえる」か
参考情報
- Announcing the Agent2Agent Protocol (A2A) — Google Developers Blog(2025年4月9日)
- Linux Foundation Launches the Agent2Agent Protocol Project to Enable Secure, Intelligent Communication Between AI Agents — Linux Foundation(2025年6月23日)
- Agent2Agent protocol (A2A) is getting an upgrade — Google Cloud Blog(2025年7月31日)
- What Is Agent2Agent (A2A) Protocol? — IBM(参照: 2026年3月25日)
- A2A Protocol 公式ドキュメント
- A2A Protocol GitHub リポジトリ
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